MATT HAIG著 『THE MIDNIGHT LIBRARY』翻訳其の⑧

 ノラは立ち止まって、何冊かの本の方へ近寄った。背表紙を飾る本の題名あるいは著者の名前はなかった。色合いの違いは別として、唯一のほかの違いは本のサイズだった。本は高さは同じようであったが、幅が異なっていた。何冊かの本は2インチの幅があり、ほかの本はそれより小さかった。1冊か2冊の本はパンフレットほどの厚さもなかった。ノラは腕を伸ばし、少しくすんだとび色、オリーブ色の中位の大きさの本を抜き出した。その本はちょっとほこりぽっく擦り切れていた。ノラが棚から本をさっと抜き出す前に、ノラは背後で声を聞いた。ノラはさっと飛びのいた。声の主は言った。「気を付けなさい」ノラは振り返ると、それが誰であるかが分かった。

               司書

「どうぞ、お気を付けなさい」

女はどこからともなくやって来たようだった。スマートな着こなし。短い髪はしらが混じりで上着はウミガメ色のタートルネックのジャンパー。見た感じ、60歳ぐらいだろう。

「どちら様ですか?」しかし、ノラがその質問を終える前に、ノラはすでに答えを知っていることに気づいた。「私は司書よ」女は恥ずかしそうに言った。「それが私です」

彼女の顔は親切そうだったが、きびしい知恵を湛えていた。同じ清潔そうな感じのしらが混じりのショート・ヘア。彼女の顔はノラが心に思い描いているとおりだった。

というのは、ノラの目の前には昔の学校の司書がいたからだ。「エルムさん」

エルムさんはか細く微笑んだ。「おそらく」

ノラはチェスをやりながら図書館で過ごしたあの雨の日々のことを思い出した。

ノラは父親が亡くなった日のことを思い出した。エルムさんが優しくそのニュースを彼女に知らせてくれた。父親が教えていた男の子のための寄宿学校のラグビー場で父親は突然、心臓発作のため息を引き取った。ノラは30分ほど体が硬直状態だった。そして、終わってないチェス・ゲームをぼんやり眺めていた。その現実は最初、ただ吸収するにはあまりにも大きすぎた。しかし、それでも横から思いっきり殴られたような感じであり、ノラは知悉していた軌道から外れたような気分になった。ノラはエルムさんをそっと抱き寄せた。そして、顔が涙とアクリル塗料の融合のためひりひり痛むまで、エルムさんのつけ襟の中で泣いた。

エルムさんはノラを抱き留め、彼女の後頭部を赤ん坊のようにさすっている。陳腐な言葉も偽の慰みもそんなことは何も言わない。ただ本当に心配しているだけだ。ノラはエルムさんがその時、「事態は良くなるわよ、ノラ。大丈夫よ」と言っていたのを思い出した。

ノラの母親がノラを迎えに来る1時間以上前だった。ノラの兄は後部座席で、酔ってぼう然としていた。ノラは無言で震える母親の隣に座って、母のことを愛してるというふうに言った。しかし、返事はなかった。

「ここはどこ?私はどこにいるの?」

「もちろん、図書館よ」「学校の図書館じゃない。出口もない。私は死んでるの?ここは死後の世界なの?」「そういうわけではありません」エルムさんは言った。「よく分かりません」「では、説明しましょう」

ゆるゆる警備員日誌

中年の警備員男子です。徒然なるままにケイビな日々を綴ります。

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