暇なのでマイクル・コナリー著『DESERT STAR』の一部を訳します

 パート1 失われた魂たちの図書館

                   1

 ボッシュはテーブルの上に錠剤を並べていた。インターホンが鳴ったとき、ボッシュはボトルからグラスへ水を注いでいた。ボッシュはチャイムのぴんぽんなど関係ないと思った。娘が鍵を持っていたが、一度も訪ねてこようとしなかった。ボッシュは訪問者などあるはずがないと考えた。選挙運動員か近所の人に違いない。ボッシュは近所の人のことなど知らなかった。近所の人の顔ぶれは数年ごとに変わり、30年経過したいま、ボッシュは新しい顔ぶれたちに挨拶することをやめていた。ボッシュは実際のところ人々がアプローチすることを恐れていた風変りな年長の元刑事であることを楽しんでいた。

だが、それから自分の名前を呼ぶ声に続いて2度目のチャイムがぴんぽんと鳴った。それはボッシュの知っている声だった。

「ハリー、あなたがそこにいるのは分かってる。あなたの車は外のすぐそこよ。」

ボッシュはテーブル下の小物入れの引き出しを開けた。引き出しにはプラスチック製の道具類、ナプキン、箸が入っていた。ボッシュは手で素早く錠剤を引き出しの中に入れて、引き出し閉じた。それから、ボッシュは立ち上がって、扉の方へ向かった。

レネイ・バラードが玄関の階段のところに立っていた。ボッシュはバラードとほぼ1年間顔を合わせていなかった。バラードは以前よりずいぶん痩せているようだった。ボッシュはバラードのジャケットの狭間から腰の部分にある拳銃を見た。

「ハリー」バラードが言った。

「髪を切ったんだね」ボッシュは言った。

「ちょっと前に」バラードは言った。

「こんなところで何をやっているんだい?レネイ」




ゆるゆる警備員日誌

中年の警備員男子です。徒然なるままにケイビな日々を綴ります。

0コメント

  • 1000 / 1000